村本孜
(成城大学社会イノベーション学部学部長、日本認知科学会第24回大会委員長)
皆様が本号を手にされる頃、東京、成城の地で、日本認知科学会第24回大会が開催されています。
成城学園は、明治・大正時代の教育者であり、大正時代の自由主義教育の中心人物として知られる澤柳政太郎によって開設されました。1917年の学園創設から今年は90周年目にあたります。その記念すべき年に、認知科学会の会員の皆様をお迎えできることを、大会運営側の一人としてうれしく、また光栄に思っております。
私たちの属する社会イノベーション学部は、2005年に開設されたまだ生まれて間もない学部です。私たちは、その新しい学部に、日本で初めて「イノベーション」という名前を付けました。イノベーションとは、いわば社会の革新をもたらすエンジンと捉えられるもので、技術革新・経営革新などとも呼ばれますが、社会そのものの変革として捉えてよいものです。新学部はこのイノベーションを骨格に据え、それを取り巻く社会全体の諸問題を発見し、解決するという問題志向型の学部で、経済学・法律学のように体系的に学問を習得するというスタイルの学部ではなく、種々の学問の成果をふんだんに活用・援用して一定の解決策を情報発信しようという考え方で作られています。
認知科学も、1956年といわれるその成立からちょうど半世紀を経ていると伺っております。今から50年前、心理学、言語学、哲学、工学、コンピュータ科学などのさまざまな分野のすぐれた研究者たちが、まさに新たな人間観・社会観を求め、それまでの研究の枠組みや考え方をイノベートしようとする試みの中から認知科学は生まれてきたのでしょう。その認知科学が日本に根付いて、四半世紀を経た2007年に私たちの成城大学で開催される日本認知科学会の全国大会が、さらに新たなイノベーションを巻き起こすきっかけのひとつとなることを期待したいと考えております。
すでに述べましたように、私たちの社会イノベーション学部はまだ創設3年目という若い学部です。大会運営の中核となる認知科学会の会員の数も少なく、さまざまな点で皆さんのご期待に十分応えられるかどうか、不安な点もあります。しかしながら、私たちは、新しいイノベーションをこの成城の地から、という思いを常に強く抱いております。そして、イノベーションを生み出すための重要な要因の一つは、多様な心が触れあい、混ざり合うことだと信じております。今回の成城における日本認知科学会の大会が、皆様にとっても、また私たち大学のメンバーにとっても、新しい出会いの場であり、知の交流の場となり、イノベーションの場ともなるとうれしく思います。
『認知科学』14巻3号巻頭言(掲載予定)