プログラム順

[OS03] プロジェクション科学の創出をめざして

9月16日(金) 9:30 - 12:00 会場:A22(情報科学研究科棟2階)
 本OSでは,表象のプロジェクションに関わる多様な分野の研究を持ち寄り,プロジェクション科学という新しい研究コミュニティーを作り出すことを目指す.

 認知科学はこれまで,外部からの入力がどのように処理され,貯蔵され,利用されるかを主に研究してきた.しかしながら,人は作り上げた表象をもう一度自らの外に投射=プロジェクションする.情報処理システムの内部に作り上げられた知覚表象は外界に定位される.記憶表象も世界に再投射され,我々をとりまく世界を了解可能なものとし,さまざまな活動の基盤を形成する.これらの基礎的な認知過程だけでなく,デザイン,表現,などの創造に関わる外化活動もその中に確実に投射という心の働きが含まれている.さらには,ごっこ遊びに見られる想像,想像上の友達(imaginary companion),トーテミズム,フェティシズム,(幽)霊,神などのようにagencyを含めた投射(擬人化,人格化)も考えられる.
 このように投射は遍在的であるが,その機構,過程,発生についての研究は方法論上のむずかしさもあり,活発に行われてきたとは言い難い.しかし情報科学におけるagentアプローチ,ロボティクス,拡張現実感などの発展により,人のさまざまな感覚の投射を制御し,これを精密なレベルで検討する可能性が出てきた.特にHAI (Human-Agent Interaction)の研究では,コンピュータ上のキャラクタ,ロボットなどに対する人間の投射行動についてかなりの程度の研究の蓄積がなされてきた.また,脳科学においてもTMSなどを用いて脳の状態をコントロールすることにより,通常とは異なる投射を生み出す可能性が見出されてきている.
 プロジェクション科学は,上記の多様な分野の知見を総合して,投射についての科学の基盤を作り出すことを企図している.ただし,現時点で投射についての理論的な枠組みはもちろん,明確な基準があるわけでもない.そこで本OSでは,発表者自らが投射である,あるいはそれと密接に関わると定義した自らの研究を持ち寄って議論し,プロジェクション科学の輪郭作りから始めたいと考えている.具体的には2件(程度)の長めのトーク,参加者の研究概要の紹介と投射との関わりについての発表を行う予定である

キーワード:定位およびその異常,想像,創造,デザイン,表現,擬人化,ごっこ遊び,トーテミズム,神,(幽)霊,フェティシズム
  • OS03-1
    鈴木宏昭 (青山学院大学 教育人間科学部教育学科 教授 博士)
    本論文では表象を外の世界に投射するプロセスとメカニズムを探求するプロジェクションサイエンスが必要である理由について論じる.次に,投射を3つに分類(投射,誤投射,虚投射)し,これらに関連する現象をリストアップするとともに,そこでのメカニズム,発生について暫定的な仮説を提出する.そしてこの探求のためには心理学,情報科学,脳科学,社会諸科学の共同が必要であることを主張する.
  • OS03-2
    小野哲雄 (北海道大学)
    「プロジェクションサイエンス」では,人間の認知機構を解明するためのまったく新しい方法論の提案を行う.特にわれわれは,内部に構成された表象が世界のどこかに投射(projection)もしくは定位されるという認知現象に注目し,このプロセスのモデル論的理解を目指す.具体的には,遠感覚における「投射」に注目し,われわれの先行研究の結果とラバーハンドイリュージョンの実験結果を比較・検討し,両者の共通点である,主観的特性が知覚された外部の物体に移り,それに付与されるプロセスについて考察を行う.
  • OS03-3
    認知神経科学の諸問題に対する「プロジェクションサイエンス」からの検討
    小川健二 (北海道大学)
  • OS03-4
    渡邉翔太 (名古屋大学大学院情報科学研究科)
    川合伸幸 (名古屋大学大学院情報科学研究科)
    前腕CGモデルを操作する際の,参加者とモデルの身体図式の一致が,運動主体感・身体所が有感に及ぼす影響を心理・生理反応の側面から検討した.その結果,参加者とモデルの身体図式の一致は運動主体感を高めることが示された.また,高い運動主体感が誘発された場合においてのみ,高い身体所有感が誘発され,収縮期血圧・一回心拍出量という心臓機能の賦活を中心とした生理反応が示されることが分かった.
  • OS03-5
    竹田陽子 (横浜国立大学)
    企業におけるイノベーションにおいては、技術者が内的な表象を人工物等によって外部に投射することで自らの思考を深める一方で、他者とのインタラクションを促し、担当者相互の認識を一致させていくプロセスが広く見られる。本研究は、製造業の技術者の思考やコミュニケーションにおける表象投射の実態を調査票調査の結果(N=400)に基づき把握し、表象投射多様性が技術と技術者の特性、所属企業の組織特性にどのように関わっているかを分析する。
  • OS03-6
    鈴木聡 (大阪経済法科大学)
    人間が擬人化されたメディアの中に自己の表象と重なる情報を見いだし,多様かつ過剰な解釈を生み出す認知過程を投射(プロジェクション)と捉えると,投射の対象としては対話相手である他者,自己,そして他者と自己が対話する場の3つが考えられる.本研究では他者としての身体化エージェントに対し,他者と自己の対話の場の投射という視点から仮想空間における身体化エージェントの身体配置を捉え,投射における認知過程と今後の研究の展望について論じる.