プログラム順

[OS06] J・D・M:Literacy, individual differences, and so on...

9月16日(金) 13:00 - 15:30 会場:A11(情報科学研究科棟1階)
 2015年に引き続き、JDM(Judgment and Decision Making)研究に関するセッションを開催する。本年は、“literacy”, “individual difference”という問題を中心トピックとして扱う。
 近年のインターネットをはじめとする情報技術の進歩により、一般の人も容易に様々な情報にアクセスできる状況にある。どのような人でも多くの情報を容易に入手できるという意味では好ましい状況にあると考えられる一方、各個人が“正しい”、あるいは“合理的”な判断や意思決定を行うためには、適切な形での情報の真偽判断、取捨選択が不可欠である。このプロセスにおいて、言語的情報、数的情報、図的情報に関する“リテラシー”が重要な認知的要因として関係する。またこのリテラシーには個人差が存在していることが知られている。このようなことから、近年、“リテラシー”、または“個人差”をキーワードとした判断・意思決定の研究が盛んに行なわれている。そこで本セッションでは、各個人が“正しい”、あるいは“合理的”な判断や意思決定を行うために、認知科学研究からどのような提言ができるか、という問題について、リテラシーや個人差をキーワードとして議論していきたいと考えている。
 この目的を達成するために、以下のようなセッションを計画している。まず、判断や意思決定に関わるリテラシーや個人差研究の最新知見を2名の研究者にご講演いただき、判断・意思決定におけるリテラシー、個人差について考える場を設ける。また会員による通常講演では、扱うトピック・研究手法を含め、幅広い内容をできる限り扱い(リテラシーや個人差を考えるヒントがあれば、これらを直接的に扱う研究である必要はない)、“正しい”、あるいは“合理的”な判断や意思決定を我々はどのように達成できるのか、という問題を議論したい。

キーワード:判断、意思決定、推論、リテラシー、個人差
  • OS06-1
    広田すみれ (東京都市大学)
    本報告ではまず広田(2015)に基づき、意思決定分野でのニューメラシーに関する尺度や研究をレビューした上で、日本での研究として報告者が過去に行った、リスクコミュニケーション場面(地震の確率的予測や長期予測地図の提示)での受け手のニューメラシーによる判断や態度の違いに関する2つの研究と、ニューメラシーによる回答行動の違いの研究を紹介し、ニューメラシー研究の可能性や注意点について考察する。
  • OS06-2
    眞嶋良全 (北星学園大学)
    科学リテラシーとは,科学情報を適切に判断するために科学の基礎的事実の方法論を理解した上で,主張の妥当性を批判的に検証する能力を獲得することである.それでは,良質な科学リテラシーを獲得することで,科学を装っていながら実証的根拠を欠いた疑似科学は駆逐されるのだろうか.本講演では,疑似科学への信奉と,科学リテラシーおよび種々の認知スタイル・能力の個人差の関連を検討した調査研究の成果を紹介する.
  • OS06-3
    山内保典 (東北大学)
    意思決定にかかわった経験や調査結果に基づき,気候変動問題において,(1)関連情報に関する十分なリテラシーを習得し,(2)リテラシーに基づいて情報の真偽判断や取捨選択を行った上で,(3)適切に思考・判断することの難しさを列挙した.その上で,市民が持つべきリテラシーや、達成すべき合理性自体を見直し,民主主義的な社会的決定における倫理という観点から,市民参加の可能性を論じた.
  • OS06-4
    大貫祐大郎 (成城大学 社会イノベーション学部)
    新垣紀子 (成城大学)
    従来の研究では、アンカリング効果を発生させる際、アンカーに具体的な数字を用いる、意識させることは重要視されていない。そこで、本研究では具体的な数値を想起できない様なアンカーを用いてアンカリング効果が発生するかを検証した。その結果、アンカリング効果には具体的な数値の提示、あるいは想起をさせる必要がある傾向が示された。そのため、アンカリング効果と関係あるとされている、認知的バイアスの検証方法に対して新たな知見を加えられる可能性が示唆された。
  • OS06-5
    白砂大 (東京大学)
    松香敏彦 (千葉大学文学部)
    二者択一の推論場面において,これまでは選択肢に対する「再認」や「熟知性」の面が注目された。本研究では,選択肢のみならず問題文に対する熟知性にも注目した。行動実験から問題文の熟知性が低い場合はより熟知性の低い選択肢が多く選ばれることが,またメディアを利用した実験からその方略が一定程度の生態学的合理性を持つことが,それぞれ示された。ゆえに,「熟知していない」こと自体も推論手がかりとして有益になりうることが示唆された。
  • OS06-6
    稲葉緑 (JR東日本研究開発センター安全研究所)
    楠神健 (JR東日本研究開発センター安全研究所)
    本研究では第三者から短絡的に思考する傾向があると評価されやすい個人の性格と、判断に十分な情報を得たと思う傾向に関する認知的特徴との関連性を明らかにすることを目的とした。結果、他者に影響されにくい性格の個人ほど短絡的に思考しやすいと他者からは評価されやすいこと、これらの個人が呈示された情報よりも多くの情報を受け取ったと認識しやすい特徴を持つことを示した。
  • OS06-7
    本田秀仁 (東京大学大学院総合文化研究科)
    松香敏彦 (千葉大学文学部)
    植田一博 (東京大学大学院 総合文化研究科 教授)
    本研究では、人間が実世界の事象に対して持つ、記憶に基づく誤った信念が推論に与える影響について検討を行った。直感的には誤った信念は推論に対して負の影響を与えるように思える。つまり、信念の誤りの大小によって推論パフォーマンスの個人差が予測できるように思われる。しかしながら本研究では、人間の誤った信念は系統的な性質を持つために、推論パフォーマンスの個人差には寄与しないことを、計算機シミュレーションならびに行動実験を通じて示した。