プログラム順

[OS08] 情報学/物語学―「人工作者」の時代のために―

9月16日(金) 13:00 - 18:20 会場:A13(情報科学研究科棟1階)
 近年,国内外において,新聞記事を自動で書くシステムの実用化,小説執筆を支援するシステムを使った小説作品の販売,特定の作家風の文章を自動で作るシステムの宣伝,等のニュースがしばしば耳に入るようになった.『ガリヴァー旅行記』では揶揄的に扱われていた「文書自動製造機」は,現在では既に現実のコンテンツビジネスの課題になりつつある.物語や小説のみならず,ニュース,広告,映像,音楽等を含めた多様なコンテンツを,程度の差はあれ自動的に生成・産出するシステムを総称して,オーガナイザは新しく「人工作者」と呼ぶ.
 学問的には,特に欧米において,物語生成や文章生成は,特に人工知能・認知科学・自然言語生成との関連でかなり古くから多くの研究が蓄積されて来ている.本セッションでは,この学問的蓄積の事実とサーベイを踏まえた上で,人工作者に向けた,またこれと関連する様々なテーマを議論する.オーガナイザは,情報学(人工知能や認知科学等)と物語学(既存の物語論や文学理論等)との学際領域において展開される物語生成システム,広告等コンテンツビジネスへの自動生成システムの導入について,映像分析とその自動生成等の主題に特に興味を持つが,無論話題がそれに限定される必要はない.また,情報学的・認知科学的・統計的・文学的・心理学的・経営学的等諸種の方法・アプローチを受け入れる.想定されるテーマとして,上記のもの以外に,以下のようなものがある(その他のテーマもあり得るだろう).
・物語,小説,エッセイ,詩,短歌,俳句,ゲーム,マンガ,映像,画像,写真,日記,スケジュール,手紙,音楽,広告,新聞記事,ツイート,等々,考えられるコンテンツの自動生成の方法,技術,システム等の提案,
・そのためのコンテンツ分析(上述のような様々な方法による),
・特に,言語,映像,音楽等の表現メディアの諸種の方法による分析,
・社会や経営の観点からの人工作者の検討,
・文学等に描かれた人工作者の紹介や分析,
 なお,情報学/物語学における“/”は,情報学の観点からの物語や物語論への接近と,逆に物語学の観点からの情報学への接近との,双方の接近法を均等に扱うというニュアンスを表現したものである.本セッションは,両方向からの接近を共に扱う.

キーワード:情報学,物語学,人工作者,人工知能,認知科学,物語論(ナラトロジー),コンテンツ
  • OS08-1
    小方孝 (岩手県立大学ソフトウェア情報学部)
     This article, at first, shows a survey (necessarily, not systematic) of research and development examples relating to “generation” of various types of information, “artificial authors”. Nine presentations in this organized session will deal with various topics including examples of an artificial author, the philosophical thought, future possibilities, and so on. This article describes those titles and overviews. Lastly, this article focuses on a narrative generation system of the author to discuss important and interesting themes and topics of the future research and development.
  • OS08-2
    金井明人 (法政大学社会学部)
    コンピュータが同一の物語的な素材から物語を生成する場合,プログラムによって素材の提示順や提示方法,さらには素材に対応する語りやテロップを操作することによって,複数の物語を生成することができる.また,物語に関する情報を部分的に削除することなどによって,不確定性を上昇させることでも生成される物語は変化する.たとえストーリーが同じであったとしても,複数の物語を生成することができ,それに伴って受け手の認知も変化するのである.この,物語を複数生成し,物語の特質や受け手の認知の変化を探究する行為を物語シミュレーションと定義し,その可能性を本発表では論じる.時間的な構造のある物語を生成するとすれば,その連続性を何によって作るかがまず問題となる.多くの場合,人物あるいはキャラクターと事象を設定していくことによる物語生成が多いとしても,物語の特質はそれに留まるわけではない.本発表では,不確定性の上昇,あるいは不確定性への意志に基づく物語シミュレーションに注目する.
  • OS08-3
    新田義彦 (日本大学経済学部)
    本セッションの中心テーマは,計算機による物語の自動生成であると理解している.本セッションに参加し講演する機会をいただいたので,「物語生成論あるいは物語自動生成プログラムの効能」についてあれこれ思索してみた.思索の結果の断片を報告して責務を果たしたい.まずあまり聞きなれぬ「万物理論」の定義について述べる.J. D. バローによれば,「あらゆる自然法則を包み込む単一の描像,すなわち,物理的世界にかってあり,現にあり,これから現れるであろうすべての事物の必然性を完全無欠な論理によって導く《万物の理論》」というものである.元来,万物理論は物理的世界における過去現在未来の事象を矛盾や誤謬なく正確に描き出す理論ということになる.物理的世界を人間の知的情報世界へと拡大変容させ,万物理論の位置づけや性質について,思索(想像,模索,妄想)してみた.言うまでもないことであるが,本論文で言う物語は,文芸作品や昔語りのような狭義の概念ではなく,人間の知的産物全般を意味する概念とする.つまり人間あるいは組織が,他の人に理解してもらうことを意図して発信する知的産物,あるいは知的行為全般を「物語」と呼ぶことにしたい.物語は何らかのメッセージの伝達,何らかの主張の表現である.我々が長い人生過程で体験し獲得(習得)する,物語の全体を究極的に総括できる万物理論(万能モデル)について考えてみることは,多分に誇大妄想の誹りを免れぬであろうが,抑えがたい魅力があることも否定できないだろう.あり得た過去の物語,今現在体験している物語,そしてあり得る未来の物語,を計算(推測,生成)するポテンシャルを「物語生成理論そして物語生成プログラム」は持っているのではないだろうか.現在の強力な計算能力,情報収集検索能力を基礎に持つ「物語生成理論」は,このような万物理論(物語の万能モデル)を構築するポテンシャルを持っているように思う.今回の講演では,物語習得の極限に位置する観念,つまり人生行路の行く末の「諦観」を扱う万物理論(万能モデル)の素描を試みたい.
  • OS08-4
    阿部明典 (千葉大学文学部)
    本論文では「人工作者」に就いて議論する.著者は,「人工作者」が作るとは,「現在生きている人間が全てを生成する訳ではない」という定義を与え,その上で,コンピュータによる作品の自動生成に就いて議論する.
  • OS08-5
    内海彰 (電気通信大学大学院情報理工学研究科)
    人工作者を実現していく上で不可欠な要素技術のひとつとして,修辞表現を生成するレトリカルエージェントが考えられる.そこで本稿では,修辞の代表的な技法である比喩を対象として,比喩生成に関する従来の研究を概観し,それらの問題点を指摘した上で,レトリカルエージェントの実現に向けての可能性を検討する.
  • OS08-6
    小野淳平 (岩手県立大学)
    小方孝 (岩手県立大学ソフトウェア情報学部)
    ゲーム,特にデジタルゲームはコンピュータの諸技術の発展に伴い急速に進歩して来た.物語や人物の反応等,ゲーム内における要素は当初,開発側の手により作り込まれていたが,様々な工夫によって自動的に生成される例も増加して来ている.筆者らは,ゲームの体験過程を通じて,物語が自動で生成されるゲームを提案した.本稿では,ゲームに関連する物語等の自動生成に関連する研究開発について紹介した後に,筆者らの物語自動生成ゲームの現状と計画について紹介する.
  • OS08-7
    川村洋次 (近畿大学経営学部)
    本稿では,クリエイターと消費者の共創に基づく広告映像制作支援システムの概念を紹介し,CFPSS,クリエイター及び消費者の役割を整理した.そして,視聴実験を通じて制作された広告映像とその評価について考察し,広告映像の制作ノウハウを抽出した.商品の消費頻度により興味を持つテーマ(コンセプト)が異なること,カメラ動きとショット秒数の最良パターン,興味を抱く時に注目される要因と購買意欲を持つ時に注目される要因などを分析により明らかにした.
  • OS08-8
    廣田章光 (近畿大学経営学部商学科)
    本研究では,デザイン思考のプログラムの特性を確認することを通じて,インサイト(創造的瞬間 (石井, 2009))を促進する手がかりについて考察を行う.デザイン思考とは,北欧の教育システム,イリノイ大学,スタンフォード大学などが創造性促進プログラムとして確立しつつある思考法である.スタンフォード大学のそれは,5つのステップ,チーム思考,ビジュアル思考,拡散・収束思考として特徴づけられる (Brown, 2009; 廣田, 2016; 廣田・橫田, 2016).本研究ではこれらの特徴と,インサイト(創造的瞬間)との関係について行った予備的考察を行う.