日程 9月9日(土) 15:40 - 17:40

オーガナイズドセッション (OS05)

会場:593中講義室・オンライン
インクルーシブ社会実現に向けた認知科学―当事者研究・現象学・予測符号化
オーガナイザー:
熊谷晋一郎(東京大学先端科学技術研究センター)
勝谷紀子(東京大学先端科学技術研究センター)
  • OS05-1
    当事者研究によるリカバリー
    招待講演
    勝谷 紀子 (東京大学先端科学技術研究センター)
    幻覚や妄想など、非定型な知覚・認知を治療すべき病理とみなすのではなく、ヒアリングヴォイシズ運動や当事者研究のように非定型な経験を周囲と共有しつつ、多様性の一部ととらえて共生や自己実現の方途を共同的に探る実践が長年おこなわれ、当事者のウェルビーイングや社会参加の促進が報告されるようになった。本発表では、当事者研究を実践してきた精神障害あるいは発達障害がある当事者へのインタビューを報告し、新しいリカバリーの過程について考察する。
  • OS05-2
    バーチャルリアリティと物語的自己の編集
    招待講演
    鳴海 拓志 (東京大学大学院情報理工学系研究科)
    バーチャルリアリティ(VR)における身体であるアバタを活用した実験系は,最小自己の編集を可能にし,その成立機序や身体性と認知の相互作用の探求に貢献してきた.他方,アバタによって変容した最小自己が物語的自己にどのような影響を与えるかはほとんど検討されていない.本発表では,最小自己と物語的自己を架橋して統一的な理解を得,誰もが望みとする物語的自己を編んでいけるインクルーシブ社会を実現する上で,VRがどのような貢献を果たせるか議論する.
  • OS05-3
    物語的自己の身体性
    招待講演
    宮原 克典 (北海道大学人間知・脳・AI研究教育センター)
    現代の哲学的自己研究では、自己には身体性と物語性という二つの側面があると言われる。これが同じ自己の二つの側面だとすると、それらのあいだの関係はどのように理解すればよいのだろうか。本発表では、自己の形成における身体と自己物語の関係に関する既存の哲学的な分析をいくつか紹介したうえで、語るという行為そのものを身体的な実践として捉える視点がさらに必要であると主張する。
  • OS05-4
    内受容感覚と外受容感覚の統合処理による階層的な認知過程
    招待講演
    晴木 祐助 (北海道大学)
    主観的経験の基盤となる知覚とそれに伴う認知フィーリングは視覚や聴覚、触覚など様々な感覚チャンネルにおいて階層的に生じる。身体内部から生じる内受容感覚はそのような感覚チャンネルの一つであり、特に内受容感覚と視覚などの外受容感覚の統合過程が主観的経験の質において重要であることが指摘されている。本発表では内受容感覚の感覚精度が外受容感覚とその認知フィーリングを変調する例を紹介し、階層的自己の形成に関わる多感覚統合処理について論じる。
  • OS05-5
    公募発表
    八木 裕子 (東洋大学)
    細馬 宏通 (早稲田大学)
    本研究は,介護関係を通して展開されるホームヘルプサービスにおける認知症高齢者の利用者とヘルパーとの相互行為に着目し,ホームヘルパーの専門性に資する何らかの方法を見つけることを目的とした.その結果,ヘルパーは発話だけでなく,さまざまな身体動作の手がかりを使いながら,注意の分散に関する障害がみられる利用者に対して,特定の対象へと誘導し,それを維持させながら,利用者の主体性の醸成を工夫していることが明らかになった.
  • OS05-6
    公募発表
    馬塚 れい子 (理研脳神経研究センター、早稲田大学)
    仲 真紀子 (理化学研究所)
    本稿では,出産や育児に関わる母親達の生きづらさも「当事者」の概念を用いて見える化することで理解を深めることができ, 父親も「当事者」視点から見直してみることで父親としての役割りや, 母親との関係についても理解が深めることができる.又 父親も「妊娠・出産・育児」当事者であるという認識が社会に広まり, 少子化対策の政策や企業の経営方針に反映されるようになれば, 子育てもしやすいインクルーシブな社会につながるのではないかと提案する.