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: 参考文献 : 円滑な話者交替はいかにして成立するか 会話コーパスの分析にもとづく考察 : 5. 議    論


6. おわりに

本研究では,コードモデルとは異なる立場から, 話者交替現象をうみ出す人間の発話行動を説明するモデル, 「自律モデル」を提案した. そして,自律モデルとコードモデルに従って 話者の移行の出現分布を予測し, 実対話データとの比較を通して以下の3点を明らかにした. (1) 両モデルともに,交替や非交替といった 円滑な移行の出現傾向を比較的よく説明できる. (2) 同時開始や沈黙といった非円滑な移行の出現傾向に関しては, コードモデルより自律モデルの方がよりよく説明できる. (3) 非円滑な移行の回避行動を導入することで, 自律モデルはよりよく実データの分布に適合する. 以上の結果から, 話者交替をうみ出す人間の発話行動のモデルとしての 自律モデルの妥当性を示すことができた.

しかし,本稿で分析した対話は 会話参加者が2人のものに限定されている. 3人以上の会話における話者交替は, 話者が増える分,現象としてより複雑になることが予測されるが, 2人の会話における話者交替と全く異なるメカニズムで生じているとは考えにくい. そのため,今後3人以上の対話も分析の対象とし, モデルを拡張していく必要がある. さらに,話者交替だけでなく他のさまざまな相互作用上, コミュニケーション上の現象を説明できるような, より一般性の高いモデルに拡張することを今後検討していきたい.

本研究は, 第1著者が 奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科博士後期課程および ATR知能映像通信研究所に在籍していた時に着手したものです. 研究の機会を与えてくださった 松本裕治教授,片桐恭弘室長に感謝いたします. またさまざまなご教示をいただいた串田秀也氏, 匿名の査読者の方々に謝意を表します. 最後に, 分析作業に協力していただいた 伊藤いずみさん,栗原美和子さん,桐山和久くん, また対話データを提供していただいた 千葉大学地図課題プロジェクトのメンバーに感謝します.



日本認知科学会論文誌『認知科学』