経済ゲーム実験における行動の一貫性:
選好、信念、適応領域
講演者:山岸俊男(東京大学)
概要:経済学で伝統的に受け入 れられてきた、自己利益を合理的に追求する存在としてのホモエコノミカスの 前提が経済実験ゲームにおける参加者の行動と一貫しないことは、多くの実験
結果が示している。こうした実験研究の結果を説明するために、経済学者たち (少なくともその一部)は、自己利益を目的として行動するという側面に関して
は、人間は自己利益以外の社会的選好を持っているというかたちでホモエコノ ミカスの修正を受け入れている。本研究は、こうした修正の妥当性を検討する
ために3年半の歳月をかけて実施した「ゲームと文化プロジェクト」の結果を 紹介し、①人々が持つ社会的選好は適応領域特定的に活性化されること、②特
に社会的交換領域においては社会的選好と同時に、人間性と社会のあり方につ いての文化特定的な信念がゲーム行動の決定に重要な役割を果たしていること
を明らかにする。本プロジェクトでは、キャリーオーバー効果の発生を極力少 なくするためにゲーム実験間に数カ月の期間をはさむかたちで、囚人のジレン
マゲーム、信頼ゲーム、独裁者ゲーム、最後通告ゲーム、鹿狩りゲームなど12 の役割を伴う10のゲームを実施した。結果は、囚人のジレンマゲーム、信頼ゲ
ーム(信頼者及び被信頼差)、信仰ゲーム(信頼者)の間では同一参加者が一 貫した行動を取るのに対して、最後通告ゲームにおける不公平提案の拒否とこ
れらのゲーム行動との間には一貫性が見られないことを示している。
落語におけるコミュニケーションの技法
講演者:2代目 林家木久蔵
概要:落語は,噺家がたった一人で登場人物の心の動きや情景を伝える極めて特殊な演芸である。我々は、噺家一人の「こと
ば」と「表情身振り」で、笑い、涙する。そこには,人に聞き入らせ,判らせ,心を動かす噺の技がある。認知科学の観点からはそれはどういう現象なのか,興味は尽きない。本講演では,前半にはそのような噺家の技術について噺家本人から伺い,
後半はその話芸を楽しませていただきつつ,その技を体験したい。。
WS1:ヒトと人工物のインタラクション:発展のための課題
企画:開一夫(東京大学),板倉昭二(京都大学),今井倫太(慶應義塾大学)
話題提供:金井祐輔(慶応義塾大学大学院),今吉晃(北海道大学大学院),
福田玄明(東京大学大学院),奥村優子(京都大学大学院文学研究科),
大須賀晋(東京大学大学院総合文化研究科・アイシン精機(株)),
佐藤良(静岡大学大学院情報学研究科)
概要:
ヒトと人工物のインタラクションは、認知科学における基礎的研究から応用・実用化に
至るまで広範にわたって重要な位置を占めている。本WSでは、将来認知科学研究とし
ての「ヒトと人工物のインタラクション」が更に発展する上での課題を、現時点での具
体的研究から考察することを目的とする。過去30年で明ら
かになったことは何か?30年後に重要となる課題は何なのか?
気鋭の若手研究者による(最先端の)発表を通じて議論したい。
WS2:概念研究のクロストーク
企画:浅川伸一(東京女子大学),京屋郁子(立命館大学)
話題提供:京屋郁子(立命館大学),浅川伸一(東京女子大学)
概要: 人工知能において記憶デバイスを構築する際にも人間の
記憶特性を参考にしようとするのは、一つの有力な方法論であろう。認知心理学において、
人間の記憶の構造を実験的手法を用いて解明する努力は百年の歴史がある。
一方,人間の脳を破壊実験できない倫理的制約のなかで,脳に障害を持つ患者の示す
神経心理学的データは、重要な示唆を与えてくれる。さらには,ニューロイメージング研究,
ニューラルネットワークなど様々な分野から,概念研究を俯瞰することを試みた。
今回,ホップフィールドネットワークを導入することで,各分野の橋渡しになる
可能性があることを議論したい。
WS3:動的な意識の流れにおいて主体性を発現させる描画ロボット
企画:後安美紀(大阪市立大学)
話題提供:岡﨑乾二郎(近畿大学),辻田勝吉(大阪工業大学),
後安美紀(大阪市立大学)
指定討論:福島真人(東京大学)
概要: 話題提供者である岡﨑,辻田,後安は,
芸術学,ロボット工学,心理学というそれぞれの専門性を活かして,乖離した身体
システムおよび知覚システムを体現するパラレルリンク型ロボットを開発し,
絵を描く主体を問う描画実験を行った.本ワークショップでは,実際に描画
ロボットのデモを行いながら,指定討論者として,学習論をご専門とする文化
人類学者の福島真人氏にもご意見を伺い,ここで生じた体験学習の意義について検討する.
WS4:拡大するデザイン研究-認知デザイン論へ向かって
企画:田中吉史(金沢工業大学)・永井由佳里(北陸先端科学技術大学院大学)
話題提供:荷方邦夫(金沢美術工芸大学),田浦俊春(神戸大学),
田中吉史(金沢工業大学),永井由佳里(北陸先端科学技術大学院大学)
指定討論:小橋康章(大化社・成城大学)
概要: 近年のデザイン研究は、デザインを単に製品や
モノとしてではなく、モノと人、社会を含んだ包括的なプロセスとして捉えるように
なってきた。このようなデザイン概念の拡大は、認知科学においてどのような新しい
研究の可能性と課題をもたらすのだろうか?このワークショップでは、商品価値、芸術、
技術、コミュニティという4つの観点からのデザイン論を話題提供し、討論によって検討
したい。
WS5:30年後の日本認知科学会に向けて
企画:小橋康章(大化社・成城大学)
話題提供:大森隆司(玉川大学),佐伯胖 (信濃教育会研究所),
鈴木宏昭 (青山学院大学), 田浦俊春(神戸大学),野口尚孝 (フリーランスデザイン研究者),
橋田浩一(東京大学), 横澤一彦(東京大学),小橋康章(大化社・成城大学)
概要: 学会の未来がどのようなものであれば嬉しいかを
一般会員の立場で考える参加型のワークショップ.大森隆司,佐伯胖,鈴木宏昭,
田浦俊春,野口尚孝,橋田浩一,横澤一彦,小橋康章(進行役兼務)の8人の話題
提供者からの,研究の内容,方法,学会の役割という3つの方向のトピックを手が
かりに,JCSSの今後30年についていままで直接話をする機会がなかった会員同士が
対話することで,未来に対する想いを共有する.
WS6:Make:コミュニティにおける実践:なぜ作る/集うのか
企画:青山征彦(駿河台大学),岡部大介(東京都市大学)
話題提供:渡辺ゆうか(FabLabKamakura,LLC 代表 /慶応義塾大学SFC研究所訪問研究員),
小池星多(東京都市大学
指定討論:八田真行(駿河台大学),有元典文(横浜国立大学)
概要: 近年、活動理論で知られるエンゲストロムの提示した『野火』
(wildfire)という概念が注目されている。枯れ野のあちこちで自然に発火する野火のように、
社会のあちこちで、同時多発的に広まっていく活動を指す。このワークショップでは、
こうした活動の一つとして、この数年で急速に拡大しつつあるMake:コミュニティを
採り上げる。活動理論やファン研究の成果を補助線にしつつ、こうした野火的活動を支える
ものは何なのかを考えていきたい。
WS7:コミュニケーションを支える知覚・認知基盤
企画:田中章浩(東京女子大学),嶋田総太郎(明治大学)
話題提供:喜多伸一(神戸大学),永井聖剛(産業技術総合研究所), 嶋田総太郎(明治大学),浅井智久(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)
指定討論:板倉昭二(京都大学)
概要: 本ワークショップではコミュニケーションを
支える知覚・認知基盤として,自他認識,他者の行為との同期,視線認知に着目する。
実験心理学や認知神経科学の立場からこれらのテーマについて研究を進めている研究者
による話題提供の後,ロボティクスや発達科学の視点から問題提起していただき,
参加者で討論をおこなう。認知科学会において基礎系の研究者が果たしうる働きに
ついて再考する契機としたい。