プログラム(速報版)
たくさんの研究発表申し込みをありがとうございました.カメラレディ原稿の提出を踏まえ,大会プログラムを作成いたしました.
このリンクからご確認ください.
また,発表者の皆さまは以下の各点の確認をお願いいたします.
★それぞれの発表の発表日時をご確認ください.OS,口頭発表,ポスター発表ともに,リアルタイムオンライン形式での発表となります.
★大会発表賞の選考対象となることをご希望された発表には,発表番号に「F」の記号が付されています.登録漏れや登録間違いがないかご確認ください.
大会にて発表を行なう方へのお願い(第一報)についてもご一読くださいますようお願いいたします.
オーガナイズドセッション
今大会においても例年同様にオーガナイズドセッション(OS)を行います。 日程の予定は以下の通りになります。- OS01: 認知科学第 29巻2号:オンラインの認知科学
- OS02: 非可換確率論を用いた認知科学(量子認知)の基礎と展開可能性
- OS03: 文化的実践における認知研究の相互理解に向けて―理論や世界観と知見の関係を探る
- OS04: 多元化する異文化体験:COVIDー19後に楽しく観光するために
- OS05: 認知科学のモデル論 ー哲学から感情までー
- OS06: 推論に基づくヒト・コミュニケーションの進化と未来
- OS07: ゲーム研究の新展開(3)~認知データの計測と評価~
- OS08: 認知・認識におけるダイバーシティとインクルージョン(D&I):当事者と研究者の共創が切り拓く知のフロンティア
- OS09: The creative self:創造的な自己を育む
- OS10: 行動実験と計算機シミュレーションの接続-認知的インタラクションフレームワークの構築に向けて-
- OS11: コロナ禍・DXで人と人工物の相互作用場面の何が変わったのか,今後どう変わるのか?
- OS12: 超々高齢化社会の認知科学:いま私たちにできること
- OS13: プロジェクションのモデル化と応用へ向けて
- OS14: 芸術を「情報」で現わす意味
- OS15: 教育評価のデジタルトランスフォーメーションに向けて:算数・数学を例に
OS01: 認知科学第 29巻2号:オンラインの認知科学
オーガナイザ:石川悟(北星学園大学)公募:10件
概要:
現在,「認知科学第29巻2号」では「オンラインの認知科学」というタイトルのもと,特集論文を募集しています(詳しくは認知科学会HP https://www.jcss.gr.jp/news/jcss/entry-386.html をご覧ください).本大会のコンセプトが『認知科学のDX(デジタルトランスフォーメーション) 』であることから,本大会での発表と議論を踏まえて特集「オンラインの認知科学」へ論文を投稿して頂きたいと考えました.そこで,特集「オンラインの認知科学」への投稿をお考えの方で,当該研究について本大会の一般セッションにおいて研究発表を希望される方は,次のように発表申し込みをおこなってください.
発表申し込み時には,「一般セッション」ではなくOSのリストの中から「認知科学第29巻2号:オンラインの認知科学」を選択し,発表申し込みをしてください.お申し込み頂いた発表は,申し込み状況と査読結果に応じて,口頭発表セッションまたは新たに設けるOSセッション(いずれも「オンラインの認知科学特集セッション」を予定)における発表,あるいはポスター発表では申し込み頂いた研究発表者間で議論が進められる場を設けることを計画しています.発表形式(OS/口頭発表/ポスター発表)の決定はプログラム委員会にご一任ください.
なお,今大会において研究発表をお申し込みいただかなくても,「オンラインの認知科学(認知科学第29巻2号)」へ投稿することが可能です.また,今大会での研究発表は「オンラインの認知科学」への投稿の妨げになりません(詳しくは認知科学会HP https://www.jcss.gr.jp/contribution/journal/plagiarism.html をご覧ください).
OS02: 非可換確率論を用いた認知科学(量子認知)の基礎と展開可能性
オーガナイザ:布山美慕(早稲田大学),西郷甲矢人(長浜バイオ大学)公募:なし
概要:
認知科学や心理学において、古典確率論が多くのモデルや理論で用いられる一方で、量子力学とのアナロジーを参照しつつ、量子論の数学的な枠組み(非可換確率論)を用いた認知科学(量子認知)の可能性が探られてきた。ここ20年ほど、実証的な量子認知の研究もCogSci等で盛り上がりを見せており、量子認知の研究者の主張によれば、古典確率論では非合理に見える認知も量子認知であれば合理的に説明できるとする(Bruza & Busemeyer, 2012; 2015)。
この量子認知固有のモデリングは、たとえば、重ね合わせ状態の記述可能性に依拠する。一例を考えれば、古典確率を用いたマルコフ決定過程においては、ある時点で2状態が確率的に観測されるとすると、その時点ではいずれか1つの状態が、たとえ観測していなくても定まっている(その2状態の統計的な割合が確率に相当する)と考えられる。一方で、古典確率論を、量子論を包含する形に一般化した非可換確率論においては、ある時点で観測すれば2状態がある確率で観測されるとしても、観測前にはその2つのいずれかの状態が定まっている必要はなく、2状態の重ね合わせ状態として定まっている状態を表現できる。観測することでいずれかの状態が(確率に応じた割合で)実現する。こういった複数状態の重ね合わせ状態の表現可能性や、観測による状態の決定という特徴によって、先行研究では概念合成や意思決定の順序効果を説明可能だとする。
一方で、量子力学と認知科学では、実証研究および理論において対象とする“状態”の統制可能性の程度も大きく異なり、量子力学のアナロジーで認知を考えるには限界もある。そこで、本OSでは、まず量子論の数学的枠組みのエッセンスであり、古典的な確率論の一般化でもある非可換確率論の重要な概念をチュートリアルで学ぶ。その上で、いくつかの実証的研究を紹介し、認知科学において非可換確率論を用いることの価値や展望を議論したい。
本OSの構成は、非可換確率論の専門家である西郷による量子認知に必要な非可換確率論のチュートリアル、布山による量子認知の基礎の説明を兼ねた実証的研究の紹介、量子認知の枠組みで実際に研究を行われている山田真希子氏の招待講演、およびディスカッサントとフロアを含めた総合議論からなる。公募は行わない。
OS03: 文化的実践における認知研究の相互理解に向けて―理論や世界観と知見の関係を探る
オーガナイザ:土倉英志(法政大学),郡司菜津美(国士舘大学)公募:2件
概要:
■企画の目的
本オーガナイズドセッション(以下、OS)では、「文化的実践における人びとの認知」に関心を寄せる研究の相互理解をうながし、「議論のプラットフォーム」の構築を模索することを目的とする。本企画は2020年に初めて開催され、約70名のかたに参加していただいた。多様な議論がなされ、好評を博した昨年の企画で議論の焦点になったことのひとつに、各研究が依拠する理論や“世界観”(青山慶氏による表現)のとらえがたさがあった。後述するとおり、経験的研究を支えている理論や世界観の見えづらさが、相互理解を妨げることがある。本企画はこの課題に取り組むことにより、先の目的を追求したい。
■文化的実践における研究間の理解を妨げうる理論や世界観の存在
文化的実践における認知にアプローチする研究では、日常でいとなまれている、家事、仕事、学び、遊び、ケア、気晴らしといった活動を取りあげる。ところが、関心を寄せる対象が似ていたとしても、関心のありかたにずれが生じることがある。もちろん、個々の研究者によって関心の所在が異なるのは当然である。しかし、本企画で焦点をあてたいのはそうした理由によるずれではない。
関心のありかたにおけるずれを生じさせるもののひとつに、その対象に向ける「まなざし」や対象を分節化するさいに採用する「道具立て」が異なっていることがある。まなざしや道具立ては、研究が依拠している理論や世界観と密接に結びついている。ここでは世界観という言葉で、何が存在しているかといった存在論、人は何を認識できるのかといった認識論、人間とはなにかといった人間観や心とはなにかといった心理観、科学はいかなるものか、また、科学はいかにあるべきかという科学観などを指すことにする。
ところが、論文では、理論や世界観の詳細が表立って語られることは少ない。また、そもそも世界観については求められてもいない。そのため、経験的研究を下支えしている暗黙の前提は、「部外者」には理解しづらい。観察の理論負荷性に言及するまでもなく、理論があるから見えることがある一方で、そうした前提を共有しない研究者(そして、一般市民!)には、かえって理論が知見の共有を阻むことがある。
こうしたことから、一見すると、関心を寄せる対象が似ていても、互いの議論の勘所をつかみ損ねることがある。さらに、こうしたずれがあることがわかっていると、その研究にどう言及すべきか判断に迷うこともある。
■理論や世界観をおもてに出す
上記のような考えから、本OSでは、文化的実践における認知研究の相互理解に向けて、研究が依拠している理論や世界観に焦点をあてる。先に示したとおり、自らが親しんでいる理論や世界観とは異なるそれは、「部外者」には見えづらい。他方で、自らが親しんでいる理論や世界観はあたかも空気のようにあたりまえのものとなっており、かならずしも常に言語化しているわけではない。ただし、本OSの関心は、科学者に自らの世界観をただ披露してもらうことにあるわけではない。本OSでは、理論や世界観をあえておもてに出しながら、「経験的研究」を報告してもらうことで、理論や世界観と知見のあいだにある関係を共有し、議論することを目指す。これにより、研究アプローチ間の相互理解を図ることを目指したい。
■本OSのねらい
本OSでは、経験的研究を下支えしている理論や世界観をおもてに出して議論することで、文化的実践に関する認知研究の相互理解を深めたい。これにより、「議論のプラットフォーム」の構築を模索することを目的とする。この目的に向けて、登壇者として、会話分析・相互行為分析、生態心理学、状況論、パフォーマンス心理学のそれぞれに造詣の深い研究者を招いて対話するほか、公募発表も募集する。本OSは教育環境のデザイン分科会が主催する。
OS04: 多元化する異文化体験:COVIDー19後に楽しく観光するために
オーガナイザ:伊藤 篤(中央大学),原田康也(早稲田大学),平松裕子(中央大学),森下美和(神戸学院大学)公募:2件
概要:
COVID-19 感染拡大防止策として国際的な人の移動に大きな制限が続き、国内でも緊急事態宣言が発令されるなどの影響で、2020年度の観光産業は大きな影響を受けた。歴史的区域の沿道の言語景観を俯瞰すれば、主に外国人観光客の激減に起因する掲示の変化は店舗を中心に短い期間で起こった。この中にむしろ今まで表面化していなかった土地の文化が顔を出し、そこに暮らす住民の生活に根付く文化受容が見られた。提案者たちが研究対象としている神戸と日光の公開景観を例にとると、神戸では他地域と同様あるいはそれ以上にアマビエのイラストが街に数多く掲示されていた。一方、日光、神戸では他地域と同様あるいはそれ以上にアマビエのイラストが街に数多く掲示されていた。一方、日光においては、各戸、店舗の入り口付近に日光山輪王寺の角大師札(つのだいしふだ)が掲示されていた。妖怪アマビエと慈恵大師良源の変化した角大師、この姿の違いは何を示すのか。
日光の場合、地元の説明文には角大師の姿を恐ろしいとしながらも「お姿」という表現に見られるような畏怖の念がある。また誰のための掲示かという点を考えたとき、家の入り口にある魔除けであり、そこに住む人・入る人を守るという要素を読み取ることができる。ここに、門前町としての日光のあり方が見られる。他方、神戸のアマビエの姿は愛嬌のあるものだが、日光の畏怖される角大師とは違い、これを玄関に貼る家々はあるだろうか。
このように、沿道に展開される景観はそこに暮らす人々の生活、またその人たちからのメッセージの表出である。人の心性は文化の影響をうけながら育まれる。また、ある指摘[1]によれば、文化特有の認知プロセスを生み出すルートを具体的に特定すると、社会志向性仮説の説明力をより増強するという。このような背景をベースに、言語景観を中心に市中に住民が掲示したところから、生きている文化的要素を探り、言語景観の観察から認知プロセスの相違の研究まで深めていく研究の方向性について議論を提起したい。インターネット使用によって標準化の進む世界の中で地域の歴史と個性が異文化に与える影響、地域にもたらす異文化の影響を捉え文化継承を地元からの表出から捉える研究は21世紀の世界の変動を足元から捉える貴重なものであると考えている。
一方で、表示を見る側は、掲示をどう受け取るのか。受容のイメージへの表示の影響はどのようなものだろうか。地域文化の理解、文化的生活、地域の特色、人の人格形成に、日常生活にどう関わっていくのか、それが訪問者にどう伝わっていくのか、掲示から探ることができるところがあるだろう。このような文化的な視点を掲示物という具体的な対象の調査および地域の人々のヒアリングから探りえるものは、文化的要素の表出を調査からみた発信者及び受容者の興味のありかを探るにとどまらない。ミシガン大学の研究者らは、東アジア文化圏の人々と北米文化圏の人々の心理過程を比較するにあたり、歴史的に育まれた世界観の違い、思考様式の違いによって、それぞれの文化圏の人々の原因帰属・態度推論など高次の心理過程のあらわれ方にも思考様式の違いに対応した体系的な文化差があると報告している[2]。その文化で入手可能な物的・心理的資源を使い、人は成熟した文化の成員となる。そのような、文化的な相違に配意した観光の見せ方への応用をOSでは具体的に考えたい。
例えば、言語景観的な観点における、現地地元の人々と外来の観光客との認識のずれとして、日本語の「の」が海外で使われるときに独特の用法や意味が生じていたり、逆に日本の「サンド / sand 」みたいなものとか、海外で sando がはやり始めているという事例もある。国内の飲食店で時折みられる "sand" という表記は「サンドイッチ」に基づく「サンド」を意図しているものと推定されるが、カタカナ語(の短縮形)をそのまま英語のつもりで使うと英語話者にとっては【砂】の意味にしかならず意図不明となるが、海外も含め日本語の「サンド」に基づく "sando" が日本語の「サンドイッチ」と「サンド」に慣れ親しんだ英語母語話者などに広く使われ始めているという事例もある。また、表示だけではなく、鳥の情報、山に伝わる神話など、自然や地域への情報をどう伝えるのかというあたりも含め、技術的な展開と神話なども含めた文化的な情報、バスの時間など、例えば、国立公園の中における情報展開のありかたなど、スマホの中の情報も含め考える要素は多い。
そしてこれらの、旅行者から見える文化的要素に関する研究はコロナ後の観光を念頭にした場合、今までとは異なる展開にも考慮すべきであろう。沿道の掲示は物理的な展開のみならず、手持ち可能ということで、スマートフォンのアプリにおけるコンテンツへの反映も重要な検討要素となる。どのような技術を使用し、地元のどのような情報をどんな手段を用いて観光客に伝えるのか。展開可能な情報の種類が多岐に及ぶために、まず、情報を整理し直し、受容者のニーズ、欲求の種類にあわせコンテンツを整理した上での情報提供があり得るだろう。
しかし、日常生活における欲求と観光における欲求は必ずしも同じではない。利便性だけを追求するのであれば、人は山奥には行く必要はない。例えば、非日常の体験を求めて人は旅に赴くのだというが、人の日常は一律ではないのであれば、非日常も同じではない。忙しい日々を送る人は旅に休息を求めるかもしれないし、退屈な日常に飽きた人は旅に刺激を求めるだろう。A Iを利用することが可能だろうか。どのような形で、これからの観光のアプリケーションを展開することができるだろうか。そしてそのアプリケーションの中に対象となる地域の文化を活かすことはいかにしてできるだろうか。本OSでは、文化圏に沿った興味を引くコンテンツに関しても検討したいと考えている。
[1]文化心理学理論のこれまでとこれから, 増田貴彦, 心理学ワールド(特集 共生時代の文化と心) (76), 5-8, 2017-01 日本心理学会
[2] Nisbett, Peng, Choi, & Norenzayan, “Culture and Systems of Thought: Holistic Versus Analytic Cognition”, (2001) Psychological Review 108(2):291-310
OS05:認知科学のモデル論ー哲学から感情までー
オーガナイザ:林勇吾(立命館大学),大森隆司(玉川大学),竹内勇剛(静岡大学),森田純哉(静岡大学),寺田和憲(岐阜大学)公募:2件
概要:
認知モデリング研究では,認知科学者が持つ問いの根幹となるテーマを扱っている.人がどうやって世界や他者や社会を知覚し,思考し,行動するのか?それをモデル的に理解するにはどのように取り組むのか?こうした問いは,単に科学的な興味だけでなく,人の活動を支援することを目指す現代の先端科学・工学の主要テーマでもあり,認知科学の隣接分野でもある.本OSでは,こうしたことを踏まえて,より多様な背景の研究者による議論により,人間の心の働きのモデル化研究とその手法について新たな洞察を得ることができるようにする.そして,新しいモデルの提案や既存モデルの拡張・再解釈や適用範囲の拡張,さらにはモデリングを通した認知過程の理論構築などの活動を,発表や議論を通じて行っていく.
OS06: 推論に基づくヒト・コミュニケーションの進化と未来
オーガナイザ:小林春美(東京電機大学),橋本敬(北陸先端科学技術大学院大学)公募:1件
概要:
コミュニケーションのモデルとして、コード・モデルと推論モデルが提案されている。コード・モデルでは、伝達者が伝えたいことを何らかの方法でコード化し、コミュニケーションの相手に伝達し、相手はコードを元の情報に戻して伝達者の伝えたかったことを知る。よく分析されてきた例としてミツバチの8の字ダンスが挙げられる。8の字ダンスでは蜜源の方向とそこまでの距離が、ミツバチのダンスの仕方にコード化されており、他のミツバチは正しくデコードして蜜源の方向へ飛んで行く。コード・モデルは動物のコミュニケーションや人間と機械のコミュニケーションを説明するためには有効と考えられるが、人間同士のコミュニケーションは、含意を含む推論モデルを想定してはじめて解釈できると考えられている。人間のコミュニケーションでも一見すると音素の並びが意味をコード化しており、「父が来ました」という発話は、(誰かの)父親が(どこかの場所に)来た、ということを伝えている。カッコ内の情報は省略されており、文脈によって聞き手は表示されていない情報を埋めることでコミュニケーションの内容が伝わる。学校で生徒がこの発話を発したとすると、「自分の(その生徒の)」父親が「自分が在籍する学校の面談場所に」来たと考えられる。しかし、もし先生が「ご両親は来られましたか?」と生徒に聞いてこの発話がなされた場合、その生徒の母親は来ていると考えられるだろうか。父親だけにしか言及していないのは、「母親は来ていない」からであろう。つまり「父が来ました」という発話は、全く母に言及しないことによって母についての情報も伝えており、母についての情報を「含意している」ことになる。この含意の仕組みは、Griceによる量の公準により説明できるとされている。このように「コード化されていない」情報を人は推論によって補う。音素にコード化されていない視線・指さしなどのジェスチャー・姿勢なども非言語情報として推論のために利用される。推論に基づくコミュニケーションはこのように文脈、含意、非言語情報、さらには世界知識などに代表される共通基盤(common ground)という多様な情報に基づく推論に依存する。そのため、情報の受け手において誤解を生じさせることもある。上の例で言えば、「母親は来ない」と解釈していたら、実は遅れて母親が到着したとしても、「父が来ました」という当初の生徒の発話は間違いではない。さらには個人間で解釈に多様性が生じやすい。たとえば「夜8時以降は外出不可」と聞くと、「夜8時前なら外出は全く自由」「夜8時前の外出も自粛」と大きく異なる解釈を生じさせる可能性がある。このようにコード化されていない情報を推測するときの自由度が高く、個人間や集団間で変動が大きいことは、コミュニケーションのデジタル化も相まって、コミュニケーションの齟齬・誤解やさらには社会における分断につながりかねない。このオーガナイズドセッションでは、なぜ人において推論に基づくコミュニケーションが進化したのか、推論に基づくコミュニケーションは何をヒトの社会にもたらし、ヒトのコミュニケーションの未来に何をもたらすかについて、関連する多様な分野の研究者に発表いただき討論を行う。
OS07: ゲーム研究の新展開(3)~認知データの計測と評価~
オーガナイザ:伊藤毅志(電気通信大学),大澤博隆(筑波大学),棟方渚(京都産業大学),池田心(北陸先端科学技術大学院大学),松原仁(東京大学)公募:4件
概要:
DeepMind社がAlphaZoro(2017)、MuZero(2019)を発表し、ゲームをプレイするAIの研究は、飛躍的進歩をしており、汎用ゲームAIの開発が視野に入ってきた。一方、人間らしさを求めるAIにも深層強化学習を用いた研究が発表されている。Microsoft社がChessを題材にしてプレイヤのスタイルを模倣するAIの実現が現実のものになってきている。このように、近年の深層強化学習の手法はゲームAIの研究の局面を大きく変化させている。ゲームを題材とした研究は、益々それをプレイする人間の認知に注目が集まっている。
一方、人間のゲームプレイヤの思考過程を明らかにする研究も様々な計測機器の進歩に伴って、新たな展開を見せている。様々な生体信号や身体の動きを手軽に測れるようになってきており、プレイヤの認知データを様々な形で計測できるようになってきている。認知データの計測とそれに伴うゲームとプレイヤの評価に関する新しい枠組みが必要になってきている。本OSでは、ゲームプレイヤの認知データの計測とそれに伴うゲームとプレイヤの評価に着目し、ゲーム研究の新しい展開について議論していく。
具体的には、パネル討論(60分)と公募一般発表(60分)で構成する。一般公募発表は、4件を上限にして募集する。パネル討論は、中谷裕教(東海大学)、大澤博隆(筑波大学)、棟方渚(京都産業大学)らにそれぞれのお立場から話題提供をしていただく予定である。
OS08: 認知・認識におけるダイバーシティとインクルージョン(D&I):当事者と研究者の共創が切り拓く知のフロンティア
オーガナイザ:伴 睦久(東京大学先端科学技術研究センター)公募:3件
概要:
■OS企画の目的
認識におけるダイバーシティ,そしてそのインクルージョンのあり方に関する方法論的イノベーションの探求は,個の科学 (The Science of the Individual) を提唱する認知科学者トッド・ローズらも「平均の終わり」としてこれを指摘したように,認知科学のフロンティアの一つと言えるでしょう。 本オーガナイズド・セッションは,バーチャル・リアリティを活用して自己知を探求する認知ミラーリング・プロジェクトやアカデミアのデザインを障害等の様々な困難を持つ当事者ならではの視点で提案・実装することを目指すインクルーシブ・アカデミア・プロジェクトなど,斬新なアプローチで新たなパラダイムを牽引する気鋭の研究者が,当事者性や個別性に着目した知と理解のあり方について自身のプロジェクトにおける知見や経験に基づいて議論し,認識におけるダイバーシティ&インクルージョンを可能とするための方法論について学際的な検討・共有を目指すものです。
■OSに参加する対象者を想定した企画内容
認知科学に取り組むすべての研究者,特に研究の方法論的イノベーションや社会実装に関心を有する研究者を歓迎いたします。なお,アイディアとして,時間が重ならないOSのオーガナイザを御招待させていただくことも,OS間の交流促進に繋がるのではないかと考えております。
OS09: The creative self:創造的な自己を育む
オーガナイザ:石黒千晶(金沢工業大学),清水大地(東京大学),清河幸子(東京大学)公募:3件
概要:
創造性研究は長い歴史の中で、誰しも新しいアイディアやプロダクトを生み出す能力を持つことを示してきた。しかし、全ての人が自分は創造的だと思っているわけでなく、この自己評価の低さが創造性を抑制する恐れがあることが指摘されている(Kelly & Kelly, 2013)。このような中新しい試みとして「The creative self」という本が出版され、creative self-beliefという概念が提唱された(Karwowski & Kaufman, 2017)。creative self-beliefは自己の創造活動への考えを指し、creative self-efficacy, creative meta-cognition, creative self-conceptなどの構成概念から構成される。以上が複雑に絡み合う中で、創造活動に関するアイデンティティが形成されていく。
creative self-belief研究は、発達や熟達の観点を取り入れながら発展し、個人が社会・他者と関わりながら創造的な人生を楽しむための知見を蓄積しつつある。以上の研究は、米国に加え中国・韓国などのアジア諸国まで広がりつつあるが、これは創造性に対する自己評価の低さが強く主張されている日本においても重大な問題と考えられよう(cf., Adobe Systems, 2012, 2017, 2020)。一体、なぜ多くの日本人が自らの創造性に自信を持てないのであろうか。そして日本で創造的な自己を育むためには、何が求められるのであろうか。本OSを通して、これらの問いに答えると同時に日本のcreative self-belief研究を発展させるきっかけにしたい。
そのため、本OSでは海外のcreative self-beliefに関する代表的な研究者を招き、その概念に関する理解を深め、創造的自己を育むための実践や関連研究に関して活発な議論を展開することを目的とする。OS前半では、creative self-belief研究の第一人者であるMaciej Karwowski氏(University of Wroclaw)にビデオ講演を依頼し、創造的自己についての概念的理解を深める。さらに指定討論者として横地早和子氏(東京未来大学)、杉村和美氏(広島大学)に議論を展開していただき、その主張をより深く理解することを目指す。そしてOS後半では、認知科学領域の創造性研究者や創造性に関する実践者の話題提供を公募する。そして、日本で創造的自己を育むための課題や実践方法を概観する。最後に、各研究者が考える創造的自己について議論しながら、日本の創造性研究、およびその応用的展開の方向性を探っていく。なお、公募については英語での発表も受け付ける。
OS10: 行動実験と計算機シミュレーションの接続-認知的インタラクションフレームワークの構築に向けて-
オーガナイザ:市川 淳(神奈川大学),坂本 孝丈(静岡大学),大澤 正彦(日本大学)公募:なし
概要:
本OSの最終的な目標は,人が関わるインタラクションを研究するうえで研究間の共通基盤となり得る認知的インタラクションフレームワーク(以下,CIF)の構築を目指すことである.ここで述べるCIFとは,相手が成人,幼児,動物,人工物に限らず,人が行うインタラクション全体の概念的な構成要素と構成要素間の関係を記述したものであり,可能な限り単純かつ抽象度が高い記述としての数理モデルを指す.
インタラクションメカニズムを理解するためには,相手の振る舞いを予測して内部状態を推定しつつ行動するという一連のプロセスを捉えることが重要である.しかし,認知科学における既存の手法(例:インタラクション後に行われる質問紙調査や行動観察の条件間比較)では,そのような時間的側面を捉えることが難しい問題がある.これに対して,内部状態に関係する変数を用意して数理モデル等を構築し,出力としての行動をみる計算機シミュレーションは問題解決に向けた有用な手法になると考えられる.ここでは,計算機上で人の行動を単に再現するだけでなく,外部からの観測が難しい内部状態の変化について説明可能なモデルを構築することが求められる.つまり,計算機シミュレーションで扱われている変数や演算が,人の認知情報処理のプロセスに対応づけられることが重要である.以上を踏まえると,現実でみられる行動,行動実験と計算機シミュレーションをいかに接続させるかを検討する必要があり,CIFはその一助になることが期待される.昨年度のOSでは主に上述した問題を指摘し,オーガナイザがCIFを提案したうえで,招待講演を通して講演者自身の取り組みとCIFを結びつけられるかに関する議論を行った.議論では「モデル」の定義や,相手の振る舞いを予測して内部状態を推定する他者モデルはインタラクションにおいてそもそも必要かといったことなど多様な視点から意見交換を行った.
そこで,本年度はCIFの構築に向けて「行動実験と計算機シミュレーションの接続」に議論の焦点をあてたセッションを開催する.行動実験と計算機シミュレーションの間の接続を図るうえで「行動実験から計算機シミュレーションへのアプローチ」と「計算機シミュレーションから行動実験へのアプローチ」の2つが挙げられる.前者は,実験で観察されたインタラクションを計算機シミュレーションにより再現し,理論的な検証を行うことである.一方で後者は,モデルに基づいた計算機シミュレーションにより生成された振る舞いが実際の人のインタラクションにおいて起こり得ることを行動実験から示し,実証することを指す.これらのアプローチを行き来し,試行錯誤することでモデルの精緻化が実現されると考えられる.しかし,行動実験を計算機シミュレーションに落とし込む,あるいは計算機シミュレーションを行動実験に落とし込むうえでの工夫や困難さは,論文や通常の研究発表で述べられることはほとんどなく,共有される機会は少ない.本OSでは,行動実験と計算機シミュレーションを相補的に用いて人のインタラクションを検討した研究事例を紹介し,議論を行う.具体的には,行動実験と計算機シミュレーションを接続させることになった理由やどのように接続させたか,試行錯誤のプロセスも含めて取り組みを紹介する.そして,講演や会場全体での議論を通して計算機シミュレーションを始めるきっかけ,あるいは計算機シミュレーションを見越した行動実験を計画するきっかけを提供する.
新型コロナウイルスの影響により,行動実験の実施に困難を伴っている研究者も数多くいると考えられる.これまでの手法を見直し,新たな手法に目を向ける機会となれば,認知科学のDX(デジタル・トランスフォーメーション)としての役割は大きいといえる.なお,領域の垣根を越えた議論を行うため,参加にあたって数理モデルの記述に関する事前知識や経験は問わない.また,若手研究者の積極的な参加を歓迎し,中・長期的な議論を期待する.新たなコミュニティが形成されることを望む.
OS11: コロナ禍・DXで人と人工物の相互作用場面の何が変わったのか,今後どう変わるのか?
オーガナイザ:須藤智(静岡大学),新井田統(株式会社KDDI総合研究所),原田悦子(筑波大学)公募:4件
概要:
コロナ禍,すなわち世界的な新型コロナウィルスの感染拡大によって、社会のデジタル化,すなわちデジタルトランスフォーメーション(DX)が「急加速」している。このDXの急加速によるデジタル化はこれまでの「可能な生活変化」を一挙に現実的なものとしたという利点も見られるが,同時に人と人工物の関係を無理に変化させ,日常生活での人が人工物を用いた諸活動に大きな影響を与えている側面もある。例えば,社会的なオンラインコミュニケーション利用要請によって,デジタルツールを用いたコミュニケーションの形が標準的になりつつあり,これまでそういた「新しい機器」利用への抵抗・忌避をしめしていた高齢者においても主体的に取り込んでいこうとする姿が見られる。しかし,その変化に適応できないユーザが取り残されるデジタルデバイド(情報格差)の問題が少なからず生じている。こうした急加速するDX化の状況において,まさにユーザ,すなわち人を中心とした(利用環境を含めた)システム設計が必要であり,人との対話を中心に利用状況の把握にもとづいた人と人工物の関係の構築が求められるが,現状ではそうした取り組みが十分に行われているとはいえず,様々な「新たな問題」を産んでいると考えられる。
今後,社会の実生活におけるDXを成功させ,誰もが取り残されない人と人工物の関係を整えていくためには,新しい社会状況,新しい生活様式の中での人と人工物の相互作用場面に注目し,人と人工物の相互作用に関わる現状,新たな課題,それにアプローチしていく方法を共有する必要がある.そこで,本セッションでは,人と人工物の相互作用場面に注目した研究や人工物の使いやすさ研究の観点から,コロナ禍による人と人工物の関係の変化,今後の「新に人にとって必要な,有用とされる」DXが進んだ際に予測される変化,また,それらの問題にアプローチするための方法論などについて共有することを目的とする。セッションでは話題提供として,高齢者,大学教育,ワークスタイル等をテーマとした話題を主催者側で準備し,公募発表の研究発表を織り交ぜで議論する。
本OSは,企画者らで準備する3名程度によるコロナ禍での人と人工物の相互作用の変化に関わる話題提供の発表,公募研究発表3-4件(1件15分程度)による発表で構成する。すべての発表後,パネル・ディスカッションの形でフロアの参加者らと,それぞれが考える今後の人と人工物の関係についての課題について自由な意見交換を行う。公募発表では,初期段階の研究成果や新しい課題の発見に関する論考(プログラム委員会によるアブストラクトの査読有り)も受け入れたい。多くの方の応募と当時のご参加をお待ちしております。
企画者で準備する発表(予定)
須藤智 コロナ禍とDXで私たちの生活はどう変わった/変わるのか?高齢者コミュニティのデジタル化を事例に考える
馬田一郎・新井田統 オンラインワークでのインタラクションを考える-対面から失われたもの・新たに得られたもの
安久絵里子・原田悦子 コロナ禍とDX:高齢者の生活・認識はどう変わったか
OS12: 超々高齢化社会の認知科学:いま私たちにできること
オーガナイザ:小橋康章(株式会社大化社),齋藤洋典(中部大学)公募:2件
概要:
高齢化してともすれば散逸してしまう研究者を学会内に温存し、これまでできなかったような超々高齢化社会における学会活動を実現するため、Zoom会議をメインに「今だからこそできる」研究や周辺活動(何らかの形での学会への貢献など)の棚卸をすることがこのセッションの目的です。高齢研究者が主体的に関わりつつも例えば学生会員ならではの「今だからこそできる」も視野に入れたいと考えています。また他学会の研究者や一般生活者との協力といった通常の学会活動を超えた試みも検討の対象として排除するものではありません。
目的を実現するアイデアが参加者のインタラクションから生まれれば、オンライン研究会のような通年の活動に結び付けられるのではないかと期待しています。
例えば
〇高齢化の一人称的、二人称的研究のきっかけづくり、
〇高齢研究者の人間として研究者としての発達の場の創出、
〇学会の枠を超える共通言語やその他のコミュニケーション手段の考案、
〇辞典づくりやアウトリーチ活動の運営などを高齢会員や学生会員が引き受けて第一線の研究者の負担を軽減する可能性の探索、
といった様々な「今だからこそできる」ことの検討を通じて、認知科学研究全体への貢献に努めたいと考ええています。
OS13: プロジェクションのモデル化と応用へ向けて
オーガナイザ:小野哲雄(北海道大学),岡田浩之(玉川大学),鈴木宏昭(青山学院大学)公募:5件
概要:
プロジェクション科学は,内的に構成された表象と実在する世界とをつなぐ認知メカニズムの構造と発生を研究し,意味に彩られた世界の中で活動する人間の姿を描き出すとともに,その成果を社会に還元することを目的としている.本学会においては,2016年の大会からこれまでに5 回のOS を企画・開催し,近年は100名を超える多数の参加者を得ている.さらに,OSで議論した内容を基盤として,学会誌『認知科学』の特集「プロジェクション科学」(26巻1号, 2019)を企画するとともに,『プロジェクション・サイエンス』(近代科学社, 2020)として出版するなど積極的な研究活動を行ってきた.
本年は研究成果をさらに社会に還元していくために,情報科学や工学の立場からプロジェクションのプロセスの解明およびモデル化について議論したい.さらに,それらをシステムとして社会実装することによって生じる,コミュニティにおける派生や伝承,人々による虚構の共有などにプロジェクションがどのように関わっていくかを議論したい.
本年は指定講演者を3名とし,その他の講演者は公募することにより,プロジェクション科学の研究者の裾野を広げ,本研究分野の活性化をはかりたい.なお公募研究については,プロジェクションに関連する研究であれば,上記の研究テーマ(モデル化,伝承,共有)とは異なるものであっても差し支えない.
OS14: 芸術を「情報」で現す意味
オーガナイザ:佐藤由紀(玉川大学 リベラルアーツ学部),安藤花恵(西南学院大学 人間科学部)公募:2件
概要:
ここ数年、認知科学会で芸術表現を認知科学的視点から解明しようという研究者が増えている。その動機は、身体情報や技の可視化、熟達化の過程の解明、芸術表現を利用した学習効果の検討、創造性等々さまざまである。
しかし、そもそも「芸術」といわれる表現、ないし表現行為を「情報」に置き換えることは可能なのか。可能であるとしたら、「情報」で現された「芸術」は、芸術なのか。芸術が情報に転換されることで失われたもの、付加されたもの、を改めて検討したい。
最終的には、芸術表現を認知科学的手法で検討をおこなうことで、新たな意味を付与できるのか、そしてそれは、芸術にとって幸福なことといえるのか、について議論をおこないたい。
OS15: 教育評価のデジタルトランスフォーメーションに向けて:算数・数学を例に
オーガナイザ:益川弘如(聖心女子大学),白水始(国立教育政策研究所),齊藤萌木(東京大学)公募:1件
概要:
■OS企画の目的
教育界においてコロナ禍は,民間事業者から提供される電子教材やAIドリルに果たせない学校教育の教育的機能を問うことになった。中教審答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」は,これに対して,オンラインと対面,さらには個別最適な学びと協働的な学びのハイブリッドによる教育の「デジタルトランスフォーメーション(DX)」を志向するが,現状ではオンライン教育が過度に個別最適な自己管理型学習に特化していることや旧態依然とした学校授業のデジタル化という意味でのリフォーム(改革)に留まり,真のトランスフォーメーション(変容)とはなっていないことへの批判もある。
そこで本OSでは,教育のデジタル化という手段を,認知科学に基づくこれからの時代に必要となる知識観・学習観・教育観への関係者全員の変容という目的に資するものとすべく,教育評価を対象として,そのデジタルトランスフォーメーションの在り方について集中的に議論する。その議論には,多様な専門家が答えを出したい問いを共有し,その問いの解決自体が各自の拠って立つ「観」の自覚化及び改訂に繋がることが必須である。本OSでは,学習が難しいとされている小・中学校の算数・数学「比・割合」を対象に,学力調査とAIドリル,協働的な学びの各分野において,子どもの学びについて「どのようなデータを収集しているのか」「その分析を通じてどのような学習の実態が明らかになるのか」「その解明を通じて授業改善などいかなるフィードバックが可能になるのか」という三つの問いを教育行政,教育工学,認知科学・学習科学,教科教育といった異なる専門家が共有し議論し,DXの在り方を見出す。
■本大会のOSとして開催する意義
本大会のテーマ趣旨の説明にあるように,対面から非対面への移行を従来の教育に当てはめるだけでは,単に講義とテストを動画とCBTに移し替えるだけのデジタル化(digitization)に留まる。これをDXに繋げるためには,認知科学が標榜してきたような知識観の変容が共に必要だろう。
即ち,現状の知識観では,知識は部分に分割でき,段階的に積み重ねられ,問題が解けるようになれば理解がなされ知識も頭の中に格納されると認識され,それゆえ教育評価もその場でどれだけ正確・完全に知識が習得されたかを重視するものとなっており,だからこそAIドリルは,児童生徒にとって最適な学習軌跡を分析・支援できると見なされている。
これに対して,もし知識が他の知識と関係付いており,自身もしくは他者の知識との関連付け(気づき)が理解に繋がり,一つの事柄の理解が他の理解を可能にする能力を増すことに繋がるとすれば,知識をより動的な「次に繋がるもの」として捉え直す必要がある。特に,これからの時代の知識が学んだ場から持ち出せ,状況に合わせて活用でき,他の知識と融合して作り変えられていくという「次の知識を生む知識」であるべきとすれば,なおさら,その教育評価の仕方も変わるべきだろう。具体的には,学習者がどのような問題を解けたかといった達成だけでなく,それが次の理解や学習をどう可能にするかという軌跡を予測し追跡する新しいデジタルデータの扱い方,即ち教育のデータサイエンスが必要になる。そのサイエンスがいかに進化すべきかを議論することによって,学習成果を達成だけでなく,持続性・発展性で評価する新たな見方が可能になるだろう。
それは教育実践を変える実用的な意義だけでなく,認知科学が教育分野とデータサイエンス分野などを架橋する役割を果たしつつその理論的知見を深めることにもつながる。
■公募発表について
「CAIからadaptive testingへ」
※認知科学におけるCAIからadaptive testingの研究史について簡潔にまとめ,現在の成果と課題について報告する発表を1件求める。